[ロンドン 13日 ロイター] - この人物が率いる傭兵集団は、ウクライナの戦場でロシアに勝利をもたらそうと奮闘している。だが、どうやらプーチン政権は彼の行き過ぎた政治的影響力を弱める方向に動いているという証拠が増えつつある。その人物とは、民間軍事会社ワグネルの創設者、エフゲニー・プリゴジン氏(61)だ。
ここ数カ月、犯罪の前科を持つプリゴジン氏がウクライナ侵攻で担う血なまぐさい役割がメディアの見出しをにぎわせている。西側諸国では「007」シリーズの宿敵の現実版のごとく描かれることさえある。
スキンヘッドと乱暴な物言いで知られるプリゴジン氏は、ロシア語メディアでも話題の的だ。同氏は西側諸国の制裁対象となったことを自慢げに語り、ロシア軍上層部を公然と非難し、戦場での成功を利用してプーチン政権の厚遇を得ようと試み、受刑者数万人を傭兵集団に徴募した経緯を詳細に明らかにしている。
プリゴジン氏があまりにも存在感を高めているため、仕事仲間やアナリストらの間では、同氏が公職への就任や政界でのキャリアを求めているのではないかという臆測が生まれている。
だがこのところ、プーチン政権がそうした臆測の芽を早めに摘み取っていく方向で動いているという証拠が増えている。プリゴジン氏本人に国防省に対するあからさまな批判を控えるように命じ、国営メディアには同氏やワグネルの名を出した報道を行わないよう勧告している。
プリゴジン氏は先週、刑務所における新兵徴募の権利が停止されたことを認めた。この権利は同氏が政治的影響力を伸ばす重要な足掛かりの1つであり、ウクライナ東部で、ワグネルが小刻みではあるが着実な前進を重ねるための力になっていた。ワグネルの部隊は少しずつバフムト市の占領に近づいているように思われる。
受刑者のための人権擁護団体でディレクターを務めるオルガ・ロマノバ氏は、受刑者の徴募業務は今年初めに国防省が引き継いだと述べている。国防省はこれを認めていない。
今も複数の当局との関係が深いセルゲイ・マルコフ元大統領顧問は、「プーチン政権幹部らは、プリゴジン氏を政界に入れないという立場だ。彼を恐れる気持ちも少しあるし、扱いにくい人物だとも思っている」と語る。
<政界進出の野心は>
長年にわたりプーチン政権を研究してきたタチアナ・スタノバヤ氏は、カーネギー国際平和財団に寄稿した論文の中で、プリゴジン氏の失脚が迫っているようには見えないが、プーチン政権とのつながりには亀裂が生じつつあると指摘した。
「国内政治の有力者らは、プリゴジン氏の扇動的な政治発言や公的機関への攻撃、さらには、政権内の誰にとっても頭痛の種となる政党結成をちらつかせてプーチン氏の側近を挑発する試みなどを好んでいない」とスタノバヤ氏は書いている。
「彼は単に有名人になったというだけではない。独自の視点を持つ本格的な政治家へと明らかに変貌しつつある」
マルコフ氏によれば、プーチン政権はプリゴジン氏から、政権から要請がない限り、独自の政治運動を立ち上げたり政党に参加したりすることはないとの言質を得ているという。
「(政権からのメッセージは)軍事的なリソースは提供するが、当面は政治には首を突っ込むなということだ」とマルコフ氏は言う。
プリゴジン氏は10日、ロシアでのインタビューの中で、政治的な野心は「ゼロ」だと述べている。
プリゴジン氏を極めて闘争心の強い人物と評するマルコフ氏は、プーチン大統領は1月14日前後にサンクトペテルブルクでプリゴジン氏と会った時、政権上層部に対するあからさまな批判を控えるよう求めたと考えている。
マルコフ氏はこの時の会談について、各々の発言の詳細は分からないとしており、ロイターでも同氏の考えの正否を確認することはできなかった。
プリゴジン氏はその後政権上層部に対する批判を和らげており、10日には珍しく映像を伴うインタビューに応え、誰のことも批判していないと明言している。
サンクトペテルブルクでのプーチン大統領との面会はロシア政府のウェブサイトには記載されていないが、少なくとも1人の同席者が認めており、その旨をソーシャルメディアに投稿している。ロシア政府は、私的な会合についてはコメントを控えるとしている。
プリゴジン氏の言動をけん制したのか、またその理由についてロシア政府にコメントを求めたが、今のところ回答はない。だが11日、ワグネルとつながりのある有力なソーシャルメディア「グレーゾーン」において、政府から国営メディアに向けられた指示文書のリークと思われるものが公開された。
この文書は受け取った側に対し、プリゴジン氏やワグネルについて実名での言及をやめるよう勧告し、ワグネルの部隊に言及するときは一般的な呼称を用いることを示唆している。
ロイターではこの文書の真偽を確認することができず、また国営メディアは、この種の指示文書を公開することを許されていない。
<「命運に陰り」>
プリゴジン氏は13日に発表したコメントで、ロシア国内メディアでワグネルが登場する頻度はこのところ低下しているようだと述べた。同氏はこれを、自身の経営するグループに打撃を与えようとする「負け犬」による企みだというが、名指しはしていない。
マルコフ氏は、これまでプリゴジン氏に関して大部分は肯定的な視点から多くのことを語ってきたが、自分も民間軍事会社のトップであるプリゴジン氏を称揚しないよう要請を受けた1人だと言う。
「彼らは、『禁止するというわけではないが、止めておいた方がよい』と強調していた」とマルコフ氏は語る。
ロシア出身で、米国のシンクタンク「シルベラード・ポリシー・アクセラレーター」の会長を務めるドミトリー・アルペロビッチ氏は、プリゴジン氏が動ける範囲は狭まりつつあると感じている、と話す。
「プリゴジン氏の命運に陰りが出ている。軍部その他のエリートに対する批判が行き過ぎだった」とアルペロビッチ氏はツイッターに投稿した。「今や、彼の羽はむしられつつある」
プリゴジン氏はワグネルの創設者であることを何年も否認してきたが、昨年9月、ようやくベールを脱ぎ、2014年に同社を設立したことを明らかにした。
この頃、ロシア政府が「特別軍事作戦」と称するウクライナ侵攻は、軍上層部にとって大きな失点となっていた。大混乱となった首都キーウ(キエフ)からの撤退に続いて北東部ハリコフ州からも撤退し、南部の都市ヘルソンからの撤退も目前に迫っていた。
ケータリング事業の成功で財をなしたプリゴジン氏は、自ら中心となって活発な広報キャンペーンを繰り広げ、ソーシャルメディアや国営テレビ、長編映画を通じて、自らが経営する傭兵部隊を、軍事的な奇跡をもたらすエリート戦闘部隊として描きだした。
プリゴジン氏は自らを冷酷で有能な愛国的経営者として、またロシアの上層部を無能で事情に疎い存在として描いた。
自らの傭兵部隊をアフリカや中東地域に展開しているプリゴジン氏は、先週、自分も部下たちも、いずれ登場したのと同じくらい突然に姿を消すかもしれない、と示唆した。だが、同氏の敵の多くはこの言葉を信じないかもしれない。
「必要とされなくなれば、荷物をまとめてアフリカに戻る」とプリゴジン氏は語った。
(Andrew Osborn記者、翻訳:エァクレーレン)
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