[金門島(台湾) 9日 ロイター] - 台湾の金門島にある元政治家のチェン・ツァンチャン氏(68)のオフィスからは、海峡を隔てて中国南部の都市・厦門(アモイ)の高層ビル群が見える。だが30年前には、この島と同じく低層の建物ばかりだった、と同氏は回想する。
その後の数十年で、金門島の森林やモロコシ畑、村々がほぼ変わらぬ姿をとどめる一方で、厦門は人口500万人の大都市へと発展した。チェン氏はその様子を目の当たりにしてきた。
台湾支配下にある金門島は、米国の首都ワシントンと同程度の面積で、中国本土の海岸から約5キロしか離れていない。チェン氏によれば、この島が必要としているのは厦門へと続く橋、つまり「経済的ライフラインへの接続」だという。
橋の建設計画は13日に実施される台湾総統選挙・立法委員(国会議員)選挙の争点となっており、主要政党すべての党首が島を訪れ、建設の是非や国家安全保障について論戦を展開してきた。台湾の有権者は選挙を通じて「中国との関係をどうすべきか」という最も重要な問いに答えようとしているが、橋の建設は、まさにその核心にある問題なのだ。
金門島は、最大野党である国民党の堅固な地盤であり、同党は伝統的に中国との関係改善を掲げてきた。チェン氏は、多くの島民と同様に島発展の鍵は中国だと見ており、橋の建設については住民投票を実施すべきだと語る。
「面積151平方キロ、人口数万人の小さな島が、いつまでも台中双方の思惑に翻弄されなければならないのか」とチェン氏は問う。「私たち島民に発言権はないのか」
台湾にとって金門島は民主主義の最前線であり、台湾の有権者が選挙権を行使できる場所として中国に最も近い。中国から見れば、同島は中国が台湾に及ぼし得る影響を計るリトマス試験紙であり、台湾市民に対する懐柔戦略の第一の標的でもある。
中国は昨年9月、台湾海峡両岸の統合についてこれまでで最も包括的な指針を公表し、厦門・金門島間の物流、エネルギー、ビジネス関係の促進を掲げた。中国当局者は11月、金門島と接続する橋の厦門側の建設はすでに開始されたと語った。
国民党の総統候補者である侯友宜氏は、橋の建設の是非を問う住民投票の実施を公約し、島民が望むなら、「海峡両岸の平和を示す最も重要な象徴」を建設すると述べている。
与党・民進党執行部は、対中国政策を担う行政院大陸委員会を通じて、中国側の提案は「夢物語」であり、経済的な誘惑で台湾人の心をつかもうとする無駄な試みだとして一蹴した。同委員会は、橋を「国家安全保障上、とてつもないリスクを運びこむトロイの木馬」と呼んだ。
中国は台湾側の異議にも関わらず台湾を自国固有の領土であると主張。台湾との「再統合」は不可避であり、民主体制のもとにある台湾を武力によって自国の支配下に置く可能性を否定していない。
中国政府は、今回の台湾総統選挙を平和か戦争かの選択であると位置付けており、台湾の有権者が中台関係を改善するための「正しい選択」を行うよう呼びかけている。
中国は特に、民進党の総統候補である頼清徳副総統について、「危険な分離主義者」と呼んで敵視している。
頼候補は、「現状維持」路線を取ると述べ、台湾の未来を決められるのは台湾人だけだとしている。
国民党も、台湾独立に強く反対する一方で、台湾で暮らす2300万人の市民こそが自らの未来を決めるべきだとしている。
<「遠すぎた橋」になるのか>
この記事に向けて金門島の住民20人以上にインタビューしたところ、台湾・中国双方の政府が協力し合えるという象徴として、また成長のけん引役、さらにはフェリーの運航時刻に縛られずに往来する手段として、橋の建設を歓迎する声が聞かれた。
他方で、特に若い有権者の中には、橋の建設が好ましくない投資を呼び込み、金門島が台湾の一部として享受している政治的自由が損なわれると懸念する声もある。存在感を強めつつある若い世代は、中国人ではなく台湾人としてのアイデンティティーを感じており、金門島の文化を振興し、経済的な機会という点でも中国依存を弱めたいと望んでいる。
書店経営者のウェン・ユーウェン氏(34)も、そうした若い世代の1人だ。2020年の総統選挙では民進党の候補者だった蔡英文現総統に投票した。金門島における民進党候補の得票率は22%で、12年の選挙に比べて3倍にも達した。
ウェン氏の書店の壁には、「若者よ、より良い未来のために帰省して投票を」と書かれたポスターが貼ってあった。棚には社会・政治分野の本が並び、「民主主義とは何か」と題する1冊もあった。
金門島の若い世代によく見られるパターンだが、ウェン氏も台湾本島で学校に通い、仕事に就いてから、島に戻ってきた。同氏は、この書店で販売する本や開催するイベントが、公的な問題についての議論の刺激になればいいと語った。
コロナ禍で中国本土とのフェリーが運航休止となったことで、「確かに別々の2つの国であることをはっきり感じた」とウェン氏は言う。
コロナ以前には、島民が娯楽や食料品の買い出しのためにフェリーで厦門を訪れることも珍しくなかった。厦門に家や土地、会社を保有している、あるいは親族がいるという人も多い。
地理的な近さや歴史的な絆を考えれば、往来が頻繁なのは自然だとウェン氏は言う。だが橋ができてしまえば、双方の政治システムの境界がさらに曖昧になりかねない、とウェン氏は危惧している。
「もし金門島と中国本土の距離がさらに縮まれば、それでも自分はここに住みたいと思うだろうか」とウェン氏は問う。「どうして発展のための可能性は1つしかないように思ってしまうのか」
1992年に戒厳令が解除されるまで、金門島の住民は、島内に駐屯する数万人規模の台湾軍兵士相手の商売で生計を立てていた。2001年に金門島・厦門間に所要時間30分のフェリー航路が開設されたことを契機に、同島は中国人にとって魅力的な観光スポットへと変貌していった。
金門島の北部海岸からは、厦門で大規模な空港を建設中のクレーンが見える。金門県の李文良副県長は、橋の建設ルートとして最も可能性が高いのは、この空港を経由して厦門市内に至るものだと言う。同副県長によれば、橋の総延長は最大8キロ、総工費は3億2200万ドル(約470億円)を超える見込みだという。
金門島初のサービス付き集合住宅の販売を担当した僑茂不動産のヘンリー・リー本部長は、中国本土との結びつきが強化される展望が高まり、台湾の投資家たちが118戸の大半を購入した、と語る。
この集合住宅は、中国の習近平国家主席が2019年に「統合発展」に向けた構想を明らかにした1年後に竣工した。販売広告では、厦門の不動産価格に比べて割安であることがうたわれている。
計画中の橋を描き入れた地図をあしらった販売パンフレットには、「人が入ってくればお金もついてくる」と書かれていた。
(翻訳:エァクレーレン)
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